2月17日(金)、ご紹介を受けて、岡山県立高梁城南高校の特別講義を聴講しました。特別講義の講師は、株式会社スタジオパブロの美術監督・藤野真里さんです。
株式会社スタジオパブロの美術監督・藤野真里さんのご講演。高梁城南高校デザイン科の生徒さんが熱心に聞いていました。
株式会社スタジオパブロ(代表:秋山健太郎)は、2008年に設立された、主にアニメ・ゲーム・パチンコ等映像作品の背景美術製作を行う会社です。本学の冨田聡先生に教えていただいたところによると、日本のアニメーションの背景美術のパイオニアの一人である小林七郎さんの設立した背景美術会社小林プロダクションの流れをくむ背景美術会社とのことです。
藤野真里さんは、大学時代に日本画を学び、入社10年目で美術監督として活躍中です。美術監督を務めた作品としては、TVアニメ『どろろ』(古橋一浩監督、MAPPA/⼿塚プロダクション制作、ツインエンジン製作、2019年)、TVアニメ『Sonny Boy』(夏目真吾監督・脚本・原作、マッドハウス制作、松竹製作・配給)、TVアニメ『ダンス・ダンス・ダンスール』(境宗久監督、MAPPA制作、ダンス・ダンス・ダンスール製作委員会製作)があります。
藤野さんの大学時代からの仲良しのお友達が高梁城南高校デザイン科の先生で、この特別講義が実現したそうです。1年生・2年生が対象で、会場の視聴覚室はいっぱいでした。藤野さんが美術監督を務めた作品の大ファンという3年生も最前列にはいました。吉備ケーブルテレビの取材もあったので、高梁市とその周辺では特別講義の様子が放映されたと思います。
ご講演は、背景美術とは何かに始まって、美術監督のお仕事、そして、背景美術会社での働き方に関するものでした。
背景美術は、セル画で動かすキャラクターなど以外の背景を描く職種で、30分の番組でだいたい300枚は背景を描かなくてはいけないそうです。
300枚も一人で描くとなるとたいへんですよね。だから、キャラクターなどのアニメーションもそうですが、何人もに手分けして背景を描くことになります。
さらに、上記の3つの作品を見るとわかるように、それぞれの作品の世界観(世界設定)にあった背景を描かなくてはなりません。『どろろ』はどこかおどろおどろしい暗い土着的な雰囲気。『Sonny Boy』は乾いた明るさが満ちた強烈な色彩の世界。『ダンス・ダンス・ダンスール』は少女漫画的なロマンチックな気分も漂うやわらかい雰囲気と鮮やかな色彩が調和した世界。一つの世界の中で背景の絵柄が変ってしまうと、そのアニメの世界観や雰囲気が壊れてしまいます。
こうしたそれぞれの作品世界を壊さないように、美術監督の一つの大事な仕事は、背景を担当する複数のスタッフからあがってきた背景をチェックして、統一した世界観・雰囲気を維持するように、必要があれば修正をして背景を仕上げることだそうです。
美術監督の仕事はこれだけではありません。作品の制作に取り掛かるのにあたって、監督が作品で実現しようとする世界観にあった背景を設計し、その原型となる背景を背景ボードなどの形で描き出すことがとても大事な仕事です。『どろろ』は戦国時代を舞台にしていますから、戦国時代のお城や建物、風俗を構成するさまざまな小物を描かなければなりません。そのためには、この時代(室町時代から戦国時代)のとりでが残る場所を訪ねて「ロケハン」したり、図書館などで関連する書籍・資料を調べて、作品に登場する建物の室内外の構造や見え方を決め、さまざまな室内の小物などを選び、背景美術のスタッフが参考にする背景ボードとしてまとめる必要があります。
背景の絵柄を決めていくにあたっては、監督やスタッフとのコミュニケーションも欠かせないそうで、『Sonny Boy』の背景を設計するにあたっては、夏目監督からアンリ・ルソーのようなという提案があり、また、秋山社長からはマチスのようにしたらという案をもらいました。こうしたコミュニケーションを通して、背景の雰囲気を決めていったそうですよ。『Sonny Boy』の大ファンで「もう3周か4周した」という生徒からの質問に答えて、こう話をされていました。
アニメーション業界というとものすごく忙しくてブラックな業界というイメージが強いものですが、藤野さんによると、だんだんと働きやすい業界に代わってきているとのことです。実際に、藤野さんの1日の生活を教えてもらうと、現在はコロナ禍の影響で、スタジオパブロは希望者にリモートワークを奨励するようになっており、だいたい自宅で仕事をされているそうです。仕事時間は、通常は朝9時から18時まで。忙しいときには残業もしなければなりませんが、そうではないときは、夜19時以降寝るまでは自由時間として使えているそうです。
アニメーション業界でも会社や働く形態(社員か請負かフリーランスか)、仕事内容、描き手の力によって、働き方はさまざまですが、だいぶ働きやすくなっている会社もあるようですね。
特別講義は質疑応答も含めて約1時間でしたが、生徒たちはとても熱心に藤野さんの話に聞き入っていました。質疑応答も、積極的でとても熱心な質問が出ていました。
藤野さんに生徒代表からお礼のことばです。(お)も生徒さんといっしょに拍手でお礼を伝えました。
本報告を書いている(お)は、アニメーション文化学部の井上博明先生や佐々木洋先生、冨田聡先生からお話を聞くなどして、耳学問でアニメーション業界のことを学んでいますが、先生方のお話に、具体的な例から肉付けがされるような特別講義で有意義でした。