2012 年 6 月 28 日

看護労働を巡る日本産業衛生学会の動き

 

いささか,古い話になるが,今年度の,第85回日本産業衛生学会が,530日~62日,名古屋で開催された。

 

 私は,後半の2日間出席し,産業保健師をしている卒業生2人と会うことができた。2人とも岡山県内で働いており,県外で久しぶりに会えたというのも変な話だが,これも学会ならではだろう。

 

 私自身,最も興味があったのは,最終日の午後の市民公開シンポジウム「看護師が健康に働き続けるための職場の課題と対策」であった。

 

 看護師の腰痛や,夜勤による悪性腫瘍リスクの増大,夜勤に伴う生活の質の問題,などが取り上げられ,厚労省労働基準局や日本看護協会の担当者からも,現行の取り組みや改善策が示された。

 

 腰痛に関しては,深刻な実態があるにもかかわらず,これまでこの学会でもあまり取り上げられなかったのは,他職種に比べて看護師からあまり声が上がらなかったことも一因ではないかとされた。私見だが,看護師としての「誇り」や「使命感」などが邪魔をしているのではないかと思う。

 

 また,諸外国では「ノーリフト」が常識なのに,わが国では,人力による患者の「リフト」が主流であることなども問題点として指摘された。

 

 夜勤に関しては,昨年もこの学会での議論を紹介したが,わが国で普及している16時間夜勤(二交代)についてとりあげられた。普及の理由は「自由時間が増える」とされており,経営サイドよりも看護師サイドからの要望が強いとも言われている。このことに関して,生活時間の調査結果が報告された。それによると,8時間夜勤(三交代)と比較すると,二交代の方が自宅で過ごす時間が長く,外出時間(ショッピング,趣味等の余暇活動)は,三交代の方が長い傾向が認められた。おそらく,長時間夜勤の疲労回復に費やされる時間が長くなっているのではないかと思う。見かけの「自由時間」は増えても,QOLはむしろ低下している現状が明らかにされた。

 

 労働生理学では,「夜勤の労働時間は日勤より短く」が常識だが,16時間夜勤はまさしく「世界の非常識」だろう。

 

 WHOの下部組織「国際がん研究機関(IARC)」が,「交代勤務」を発がん因子の「2A」(ヒトにたいしておそらく発がん性がある)に分類したことは,このブログでも紹介した。メカニズムについては十分に解明されてはいないようであるが,デンマークでは20年以上の交代勤務経験者が乳がんにかかった場合,労働災害として認定されるという。

 

 夜勤に関しては,日本看護協会がガイドラインを提示している(615日付「協会ニュース」Vol.539)。ただし,実現には多くの難題があるのも事実で,例えば,慢性的な人手不足の解消が先決かも知れないし,診療報酬への反映などは,かなり困難だろう。それらの点を加味しての,かなり現実的な妥協案なのだろうが・・・。

 

 「工場法」制定101年を記念して企画された,前日のメインシンポジウム「希望に満ちた労働と生活への構想」でも指摘された数多くの問題点には,共感することが多かった。例えば,「長時間労働」について,誤解を恐れずに言えば,わが国の現状は,100年前と本質的には変わっていないと言わざるを得ない。そのシンポジウムでも指摘されたのだが,この学会のルーツと言って過言でない「倉敷労働科学研究所」を創設した,大原孫三郎の先見性は,本当にすごいと思う。

 

 多くのことを考えさせられた学会であった。

 

「産業衛生管理論」担当  尾瀬

 

無題

 

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