高梁市内に、地域ICTクラブ「ICTクラブ高梁」ができました。地域ICTクラブとは、情報通信技術(ICT)の学習や活用を通して、多様な地域の人々が交流する場です。アニメーション文化学部・外国語学部・保健医療福祉学部など、本学の教員が、このクラブを支援しています。
ICTクラブ高梁は、今年JR備中高梁駅前のコワーキングスペース「T2-Base」に、パソコンや3Dプリンタなどのさまざまな情報通信機器(ICT機器)を備える会場を設けることとなりました。
これに併せて、今年度は、若者向けにキャリアアップ講座として、クリエイティブな活動と仕事とをどうやって結びつけていけばいいか学ぶことができる連続講演会を開催することとなりました。
第1回は、「ジモトで音楽をシゴトにする!~地方からDTMで発信するクリエイティブな働き方」と題して、作曲家・サウンドデザイナーの山路敦司先生をお招きして開催されました。
DTM(デスクトップミュージック)は、パソコンを使って自分の部屋で音楽を作曲・編曲して、演奏することです。
山路先生によると、ボカロ(ボーカロイド)のヒット曲やゲームのサウンドだけでなく、いまの社会で私たちが耳にする音楽やデザインされたサウンドの多くには、何らかの形でコンピュータが関わっているといいます。
高性能パソコンの価格が手ごろになり、パソコン向けに、さまざまな音を合成して出力できるシンセサイザーや、楽譜が読めなくても思い通りにさまざまな楽音や音を並べて作曲・演奏できるMIDIシーケンサーが登場したことで、個人でもコンピュータ音楽を比較的手ごろに楽しめるようになりました。こうした機能を総合したアプリのことを「DAW」(デジタルオーディオワークステーション)といいます。山路先生によると、無料のDAWもあるそうです。
山路先生は、大阪電気通信大学総合情報学部ゲーム&メディア学科で学生を指導しています。講座では、山路先生の作品に加えて(ビートが効いたラップだけど、京都の町に映えてとてもかっこいい)、ボカロで制作した学生さんの作品も紹介されました。
「東アジア文化都市2017京都」プロモーション映像。クリエイティブユニットのトーチカがディレクター。山路先生が音楽で参加しました。
学生さんの指導経験から、山路先生は、コンピュータ音楽で上達するコツを教えてくれました。
作曲というと難しく感じますが、コンピュータ音楽の作曲で上達するためにはともかく大きな曲を作ろうとするのではなくて、思いついたらすぐに手を動かしてたくさんつくることを目指すといいそうです。シーケンサーでいろいろな音を並べて組み合わせていけば、結構簡単に音楽をつくれます。
その一方で、自分の好きな曲を耳コピー(いわゆる「ミミコピ」)してシーケンサーで再現することを続けていくと、和音やビートのしくみ、音楽の構成などが分析的に学べるので、自分で作曲するのと並行してやってみるといいそうです。クラシック音楽の作曲のトレーニングでも「聴音」という同じような方法があるそうですよ。
こうしたトレーニングをするだけでなく、ともかく人に聞いてもらってフィードバックを受ける、ほめてもらうというだけではなく、批評を受けることも大事だと言います。現代社会では、インターネット上でさまざまな発表の場があるので、人に自分の音楽を聴いてもらう機会はたくさんあります。人に聞いてもらってフィードバックを受けることで、自分自身の音楽を磨いていくことができるといいます。
休憩をはさんでからは、音楽を仕事にするにはどうすればよいかという実践的なお話。会場を見回すと、高校生や若者がとくに熱心にメモを取っているようでした。自分の将来に直接結びつくかもしれない話題ですものね。
山路先生によると、音楽を「ライスワーク」、つまりご飯を食べるための仕事ととらえるか、「ライフワーク」、人生の中で伴侶のように楽しむものととらえるかで、大きく道が分かれるそうです。
作曲・編曲・サウンドデザイン・演奏家・歌手など、正面から音楽をライスワークにするのはとてもたいへんだというのが、山路先生のお話です。音楽が好きな多くの人は、音楽を制作する人・演奏する人々の周囲のさまざまな仕事に取り組んでいるそうです。レコード会社でも広告宣伝や営業の人がいますし、楽器を運ぶ専門の物流業者などもあります。音楽に携わる仕事をしたいという場合には、一度俯瞰的…つまり、一歩立ち止まって、大きく拡げてみて、やりたいことに関わる仕事にどのようなものがあるのか調べてみるとよい。こんな風に山路先生は話します。
一方で、ライフワークにする、自分が音楽を愉しんでいくという道もあります。これは、直接・間接に音楽にかかわる仕事に就くのではなく、あえて安定した別の仕事を選ぶという選択です。ライスワークは音楽制作に近い仕事(プログラミングやWebデザインなど)、または音楽制作からは離れた仕事を別に持ったうえで、ライフワークとして音楽を愉しむ。ということですね。
インターネットでボカロを操り魅力的な音楽を創り出す「ボカロP」と呼ばれるクリエイターたちの多くもライスワークを別に持ったうえで、ライフワークとして音楽を愉しんでいます。
また、ライスワークとして音楽を仕事にした場合、実感として楽しいこと3割、つらいことたいへんなこと嫌なこと7割とのことです。納期や品質、お客の注文などなどいろいろと大きな制約があったうえで仕事をしなければならないことから、音楽やサウンドが完成したときや実際に発表されたときの大きな喜びはあっても、つらいことたいへんなことがあるのは忘れてはならないとも、若い人向けに注意していました。
そのうえで、現在はインターネットを活用すると、時間や距離の制約を超えて、さまざまな仕事に取り組める時代となりました。音楽などのクリエイティブな仕事となると、東京・大阪に出るという選択が考えられますが、山路先生の経験では、関西にいながら、一度も顔を合わせることなく、東京から音楽の発注を受けて納品したという経験があるそうです。
さらに、ライフワークとして音楽を愉しむ場合には、インターネットにはさまざまな発表の場があります。地方にいながら、ライフワークとして音楽を愉しむには、インターネットが人に聞いてもらうための場をさまざまに用意しているのでともかくよい時代になったわけです。
講演後半の終了後、山路先生と会場との対話もとても活発なものでした。映像作品とコラボする場合の制作の仕方や、DTMに取り組むための具体的なツールの相談、地方で学んだ若者がクリエイティブな仕事につくためのルートなどなど、話題が尽きませんでした。
今回の講座は会場(コワーキングスペースT2-Base)だけでなく、インターネットでも配信。
パソコンやインターネットなどのICTが普及した現代において、ライスワーク/ライフワークとして、音楽とどうつき合えばよいかいろいろな知識やヒントを得て、考えることができた2時間でした。