アニメーション文化学部をはじめ、吉備国際大学の教職員・学生や地域の人たちが応援しているICTクラブ高梁の第3回講座が開催されました。
タイトルは、「10年後ゲームクリエイターになる 学校の勉強はゲームにどう役立つか」。8月11日の山の日にオンラインで開催されました。
講師は、ゲーム教育ジャーナリスト・東京国際工科専門職大学講師の小野憲史先生です。小野先生は、長くデジタルゲーム業界を取材・調査してきたジャーナリストで、現在は大学教員として、デジタルゲームの世界で活躍したい学生の指導にもあたっています。国際的なゲーム開発者の団体「国際ゲーム開発者協会日本」(IGDA日本)の名誉理事・事務局長でもあります。
ゲーム教育ジャーナリスト・東京国際工科専門職大学講師の小野憲史先生
IGDA日本は、子どもたちの教育にも力を入れていて、各地で「デジタルからくり装置作りワークショップ」という子ども向けのワークショップを開催しています。このワークショップでは、参加者みんなでデジタル世界の中にボールが転がっていく「ピタゴラ装置」のような複雑なからくり装置をつくります。プログラミングの知識がなくても、直感的にデジタル世界の部品を組み合わせることで、コンピュータの中にいろいろなものができあがっていくのは、子どもたちに人気のマインクラフト(マイクラ)のようで、大人気です。2018年に、ICTクラブ高梁がある岡山県高梁市で開催した際にも2日間で20人近くの子どもたちが集まりました。
「デジタルからくり装置作りワークショップ」では、ゲームづくりの初歩の初歩を体験することができますが、小野先生によると、いまの子どもたちは、昔のマンガ・アニメ「北斗の拳」風に言うと、「おまえはもうゲームをつくっている」んだそうです。
これはこんな理由です。
小学校でプログラミング教育が始まりました。小学校のプログラミング教育では、ビジュアルな部品になった命令を組み合わせていくとプログラムを作ることができる「Scratch」というプログラミング言語が使われています。
このScratchを活用して子どもたちが最初に作りたいと思い、実際に作っているのがいろいろなゲームです。Scratchは無料で利用できるので、だれでも気軽にゲームを作れる環境が整っているので、これを活用すれば、もうみんなゲームクリエイターになれるというのです。
実際、ほかの分野で活躍しながらアマチュアでゲーム作りを楽しみ、話題を生むゲームを発表する人も出てきました。例えば、お笑い芸人の野田クリスタルさんがつくった「ブロックくずして」は、独創性の高いゲームとして話題を呼びました。
さらに、ゲームの世界はこうした「ホビーゲーム」と有名なディストリビューター(いわゆる「ゲーム会社」)から発売されるビッグタイトル(「AAAゲーム」と呼ばれます)、個人や小企業が独自に開発しインターネットなどで配信するインディーゲームに「三極化」しているそうです。
ゲームを遊ぶ人「ゲーマー」からゲームクリエイターになるには、自己視点で遊ぶ→自己視点でつくる(作って「自分が」楽しい)→他者視点で作る(作ったものを遊ばせて楽しい)と3段階で、自分の視点や行動を発展させていく必要があるといいます。
ゲームデザイナーの柴田賀盆さんは、「だれゲー」という表現で他者視点でのゲーム作りを表現します。つまり、「身近な人の顔を思い浮かべながらビデオゲームを作る」のが、おもしろい、楽しいゲームをつくる基本なのだそうです。プレゼントを贈るときも贈る相手が何を好きかを考えたうえで、いい意味で相手の期待を裏切って楽しませるようなプレゼントを考えますよね。両親や友達、先生など身近な人にゲームを楽しんでもらうとしたらどんなものがよいか…こうしたことを考えると、子どももおもしろいゲームを作ることができるはずだと、小野先生は言います。
小野先生は、障害者福祉施設で入所者の方にゲームを楽しんでもらうイベントを支援した経験があるそうです。このときわかったのは、片手だけで遊べるゲームが意外と少ないことでした。身体の片側がマヒしたり、または、ほかの理由から片腕・片手が使えない人が楽しく遊べるゲームとして、NINTENDO Switch Sportsを選んだそうです。確かに、片手だけ動けば、指先の難しい操作をせずに、バレーボールやテニスなどで遊べますし、複数の人が一度に遊べるので、みんなで楽しめますね。ただ、一部の人には十分に楽しんでいただくことができなかったそうです。
機械・装置やウェブなどが誰でも使えるように配慮することを「アクセシビリティ」といいますが、片手で遊べる、指先で遊べる(指先だけ動けば遊べる)、大きなボタンで遊べる、4人で遊べる、内容がすぐに理解できる、途中で失敗したりゲームオーバーにならないなどの特徴が、障害があっても遊んで楽しめるというゲームには必要だといいます。
たとえば、Microsoft Xbox向けのXbox Adaptive Controllerは、大きなボタンで操作をしやすくして、いろいろな障害がある人でも遊べるようにしたものです。
結局、小野先生は、第2回ゲーム大会のため、先ほど書いたような条件を満たす「つなひきゲーム」と「チューチューバトル」という2つのゲームを自分で制作しました。このゲーム制作では作業療法士の奥様のアドバイスから練習タイムやゲームの速度の調節機能などを入れたそうです。こうした工夫で、より多くの人に楽しんでもらえるゲームになったとのことでした。中には足や顎でボタンを押すなど、意外な人が上手だったこともわかったそうです。
Scratchで自作した「つなひきゲーム」と「チューチューバトル」のイメージ。
ゲームづくりも、やはり課題解決のための「デザイン」が必要です。これはエンジニアリング(工学)分野では当たり前で、だれのどんな課題をどのように解決し、競合他者と比べて何が優れていて、コストが適正かということを考えないといけないそうです。ゲームを制作するときも計画・実行・チェック・修正のPDCAサイクルが必要で、ユーザーをよく観察してどんな特性・興味を持っているかを知り、そのうえでユーザーが喜んでくれるようにゲームを作り、さらに実際どのように遊んでいるか観察して確認し、必要があれば修正するということが必要になります。
つまり、だれに遊んでもらうかを明らかにしたうえで、その人たちが喜んでくれるゲームをつくるということが何よりも大事だということになります。
では、10年後いまの中学生や高校生が社会に出て、ゲームクリエイターになるころには、ゲームはどのようなものになっているでしょうか。小野先生は、まず、現在65歳の架空の人物「芸夢好雄(げいむすきお)」さんのゲーム人生をたどって、アナログゲームから現在のモバイルゲームまでの歴史を振り返りました。この歴史を見ると、古いゲームもずっと残り続けることで、ゲームの多様性が増し市場が広がっていく大きな傾向と、ゲームセンターから家庭、個人とゲームがどんどんパーソナルなものになっていくという大きな傾向があるといいます。
そして、現在のゲームは、人気ゲームを見ると、ネットワークを通じて、友達とオンラインで遊べる、そして、何かをつくる・表現するというものになっているといいます。たとえば、マインクラフトやフォートナイト、ポケモン、あつまれどうぶつの森シリーズなど。
さらに、10年後には、すべてのものがインターネットにつながり、現実世界が仮想世界によって包み込まれるようになり、人間とモノやデータが協調して動作するようになると、小野先生は予想します。手掛かりになるのは、現代のSFです。
たとえば、SFノベル・アニメの『ソードアート・オンライン』では、五感すべてを接続して没入して遊ぶXRゲーム(「XR」というのは、バーチャルリアリティ(VR)や拡張現実(AR)など仮想世界やその技術の総称のこと)が描かれました。また、アニメ『電脳コイル』のように、現実世界の中でゲームを遊んだり、電脳ペットを飼ったりという世界が実現するかもしれません。
こうした世界を予感させるような遊びもすでに登場しています。室内で仮想の潮干狩りすることができるバンダイナムコの「屋内砂浜 海の子」や、ゲーム世界のサウンドをイヤホンから聞きながら街を散策することで、現実世界にゲーム世界を重ね合わせて楽しむことができるソニーの「ロケトーン」などがあります。また、現在体験に70万円かかりますが、情報通信技術(ICT)と、キャストのアクションを活用してテーマパークにスターウォーズ世界を再現した「ギャラクティックスタークルーザー」は、きわめてリアルに映画の中に入り込み登場人物となったような経験ができるホテルです。このホテルはアメリカのウォルト・ディズニー・ワールドの中にあります。
こういった大型施設などを活用して、まるで物語世界の中に入ったような体験ができる演劇作品は、「イマーシブシアター」と呼ばれ、国内でもホテルや大型施設を活用して上演されるようになっています。
このように、社会のDX化とともに、ゲームは現実世界と融合していくと、小野先生は予想しています。その一方で、本当に「これはゲームか?」という意見もあるかもしれません。しかし、小野先生によれば、今までもゲームの歴史は「KGN」で進んできたといいます。つまり「こんな(K)のゲーム(G)じゃない(N)」と言われた遊びがゲームとして認知され、ゲームの世界を豊かにしてきたのが、ゲームの歴史だったというのです。ドラゴンクエストさえも、ハイスコアを競い合うアクションゲームがゲームだと思われていた当時は、「こんなのゲームじゃない」と言われていたそうですよ。
ゲームは目と指と心を動かすと、小野先生はいいます。目を動かし、指を動かすことで、おもしろいと思い感動し心が動く。これは、魅力的な「目標」と目標達成の「手段」、適切難易度の「障害」に相当し、これがゲームの3要素です。現実世界をよく観察すると、こうした目標も手段も障害も見えてきます。そうすると、現実世界を抽象化し、その目標・手段・障害を誇張して体験させるのがゲームだということになるでしょう。
逆に、ゲームが現実を抽象化したものだとすると、ゲームを現実に適用することもできるはずと、小野先生は指摘します。ストレスを感じてストレスから解放されるというループを経験することがゲームでも現実世界でも快感を産む原動力になるので、このループをうまく設計できれば、現実世界とゲームを融合させられるといいます。同時に、ゲームは現実のある側面を強調することで、現実を批評するという性質を持つ場合もあります。
将来ゲームクリエイターを目指そうとする子どもたち(中学生・高校生)は、そうすると、まずは現実をよく観察して現実世界がどのように成り立っているか知ることが大事です。さらに、前半の話題で見たように、友だちや先生たちをよく観察して何をしたら喜んでもらえるか考えるのも、ゲームでわくわくし喜んでもらうためには大事です。
こうしたトレーニングは学校生活の中でできます。たとえば、運動会で新しい種目を考案してみるということが考えられます。実際に考えられた新しい遊びとしては、座布団型圧力センサーを使って、おしりを動かすことでトイレをきれいに掃除できるというようなゲームがあるそうです。
小野先生によれば、「ゲームは誰でも作れる」が、そのときおもしろいゲームを作るために大事なのは、「誰かのためにつくる」ということ。その誰かをよく観察し、どうすればその人が喜んでくれるかをよく考えてゲームを作るということが、ゲームクリエイターになる第一歩--これが、小野先生のご講演の結論です。
そうすると、ゲームクリエイターになるためには、ゲームをする手を休め、ゲームから手を放し、現実や、身の回りの人に目を向けることが大事だということになりそうですね。ゲームだけにハマっていると実はゲームクリエイターになるのは逆に難しくなってしまうでしょう。ゲームクリエイターになりたいなあという人は、周りの人をよく観察しておしゃべりをしてみるということが、ゲームクリエイターへの第一歩。なのでしょう。
これはたぶんアニメーション制作にもつながる話のように思います。アニメーションを制作して、みんなを楽しませたい、感動させたいという人は、人間に興味をもっていないと、やはり人が見て楽しみ感動し、ときには怖がり、びっくりするといったようなアニメーションをつくるのは難しいかもしれません。好きなアニメーションを見るだけでなく、その外にも目を向けてみることがとても大事なようです。