人とは違う自分を楽しむ仲間がたくさんいる。
興味は、大きな可能性へと変わっていくと気づけた。
「やってみたら?」「一緒にやろうよ」そんな一言が、いつも背中を押してくれる。
やってみたくて手伝ってみた農作業。
そうしたら、想像以上に喜んでもらえた。
なんだか、すごくやりがいがありそうだ。
淡路島原産の柑橘「ナルトオレンジ」の品種保存に取り組んでいます。ナルトオレンジは非常に香り高い柑橘ですが、栽培農家さんの高齢化(なんと平均年齢79.4歳!)に伴い、今や「幻の柑橘」と呼ばれています。このままでは近い将来、ナルトオレンジという価値ある品種が失われてしまう。しかし、地域創成は我々の押しつけではだめで、地域の方が“やろう!”と思って初めて動き出すもの。その想いから、農家さん一人ひとりを訪ね、想いを共有し、伝統的に培われた栽培技術を教えていただきながら、種の保存に取り組んでいます。活動を通じて、ナルトオレンジ以外にもご相談をいただくことが増え、新たな地域の課題も浮き彫りになってきました。
自分に自信が無い人ってたくさんいます。“どうせやっても無駄だろう”、“できないだろう”という思い込みがどこかにある。でも、本当は違う。自分のやりたい道は、自分で見つけるんだよということに、気づいてほしいんです。だから、僕らは学生一人ひとりが何に興味を持っているのか真剣に見ています。はじめはちょっとした興味で構いません。その興味が行動の原動力になるのですから。教育に正攻法はありませんが「やってみたらできた」という成功体験と、「なんで失敗したんだろう、じゃあ次はこれをやってみよう」という失敗経験は人の成長を加速させる。学生たちには自分の気持ちに素直に、成功も失敗もたくさん経験して成長してほしいと思っています。
栄養や食品加工の側面から、ナルトオレンジの生産継続に取り組んでいます。この取り組みを始めたのは「ナルトオレンジの良さを多くの人に知ってもらいたい」という思いが原点。様々な理由で、ある品種が淘汰されてしまうことはあります。しかし、その理由が“後継者不足”というのは勿体ないことだと思いませんか?美味しいものが失われてしまう、それはとても残念なことだと考え、他の専門の先生方と協働で取り組んでいます。このほか、獣害対策を目的とした狩猟も行っています。こちらは、学生たちの申し出がきっかけ。現在は獣害の推移観察や、ジビエを活用した地域活性にも学生たちとともに力を入れています。
私は、どんな学生にも必ず「やりたいこと」があるはずだと思っています。どんなに難しいと思われることでも、可能性は決して0ではないし、目的に向かって行動すれば必ず、何らかの変化が起こる。そうした積み重ねが大切だと思っています。学生の話を聞くと、彼らは真剣です。本気で願う夢や希望は、絶対に叶えてあげたいし、そのための協力は惜しみたくない。諦めてほしくないんですよ。学生の中には、視野が狭かったり、自分を過小評価する子もいます。でも、実はそんなことはどうでもいいし、人に任せればいいことはいっぱいあるんですよ。先生なんて、こき使えばいいんです。もっと迷惑をかけて、助けてもらった分、次は誰かを助けてあげられるようになればいい。僕はそう思いますね。
高校はいわゆる進学校。周りの人の能力と比べて、諦める癖がついていました。でも、本当はそんな自分を変えたいと思っていました。地域創成農学科に入学して周りを見ると、それまで僕が知っていた人たちとは全然違う、自信を持った人たちばかり。彼らは、他人の目を気にせず「これが好きだからやっている」と口を揃えて言うのです。その姿に触発され、実家(農家)で悩まされていた獣害を何とかしたいと先生に打ち明けたことをきっかけに、狩猟免許を取得。狩りに取り組むようになりました。先生は、一見無理なことに対しても、常に「いいじゃん、やってみたら」と言います。失敗したら別の方法を考えれば良いんだ、と。失敗は、実は失敗じゃない。前に進むための原動力なんだと今では思えます。
高校までは、いつも「どうしようかな…」って誤魔化して、結局やらなくて、将来の夢も見えなかった私。でも、この学部では雑談の中で何気なく言った一言や、学生が興味を持っていることを、きちんと先生たちが覚えていてくれて、どんどんきっかけをくれるんですね。地元特産の果物を使ったお菓子の商品名やパッケージ開発、農業バイトや女性就農者の支援など、思いもよらなかったいろんな経験をしてみて“無駄になることなんかない”と気づくことができました。最初はそんなに興味がないことでも、やってみると、人が喜んでくれるんです。「助かるわ!嬉しいなぁ!」って。そうした経験を通して、将来は生産に携わりたいと本気で思えるようになりました。
ナルトオレンジを使った「あわじまふぃん」は、小さな子どもにも読めるようにひらがなで名付けました
美味しいと評判の特製ジェラート。島内の果樹園やカフェで食べることができます
子どもの頃からアイスクリーム屋さんになりたかった。そんな僕が考案したジェラートがいま、淡路島内の果樹園やカフェで販売されています。こんなことができるなんて、入学前は思いもしませんでした。これまで「アイスクリーム屋さんになりたい」なんて、まず笑われるか、みんな冗談かと思って、誰も真剣には受け止めてくれませんでした。でも、ここでは自分の想いを打ち明けると、みんなが興味を持ってくれる。先生も仲間も、企業の方も、みんな協力してくれるんです。金沢先生は、僕の話をとても嬉しそうに聞いてくれました。そして、僕に足りないものを考えて、必要な経験をさせてくださる。コミュニケーションが苦手な僕に、シンポジウムでの研究発表のお手伝いの機会を作ってくださったこともありました。こうした経験を通して、以前よりもずっと積極的になれた自分を実感しています。
地域と連携した、
ナルトオレンジの加工品開発
ナルトオレンジの強い芳香と爽快な酸味を活かし、地域の企業やお店と連携した加工品開発に取り組んでいます。濱本くんが開発に携わったジェラートをはじめ、洋菓子店と共同開発し、三宅さんが商品名・パッケージデザインを考案した「あわじまふぃん」。この他にも、果皮をふんだんに練り込んだ食パンや、地元カフェによるオレンジスカッシュなど、ぞくぞく開発中です!
シェアハウスに入居して1年が経ちました。休耕地をお借りして野菜栽培に取り組んだり、地域の活動に参加したりと毎日が充実しています。小さな集落なので、近所に住んでいる方のことはフルネームで覚えています。毎日挨拶しますし、人間関係が濃密。農作業で分からないことも細かく教えてもらえます。野菜の日々の成長や、収穫できたものを帰省の際に実家へ持ち帰り、家族に食べてもらって反応を見ることも楽しいですよ。地域の活動は、お年寄りにとって大変な力仕事も多いので、精力的に参加するようにしています。
地域活性の取り組みには、入学前から興味がありました。高齢化や過疎化といった地域課題に対して、何か自分にできることはないかと考えたことがきっかけ。一斉清掃や草刈りといった地域の活動をはじめ、農業バイトにも取り組んでいます。玉ねぎの収穫って本当に重労働で、若い人でも大変なのに、それをお年寄りがやっているんです。手伝いが終わった後は「ありがとう」って、何度も何度も言ってくれて、すごくやりがいを感じました。人同士のつながりを強く感じられる環境で、私にできることは何か、ということを模索していきたいです。
高校の頃の経験を通して、地域で暮らし、働くみなさんは、一人ひとりが何かにこだわりをもってお仕事に励んでいるということを知りました。そして、人間は誰しもその人なりの魅力を備えています。深く関われば関わるほど、その人間味を味わえると思うのです。人間関係が濃密で集落全体が一つの家族のような「田舎」は、人の温かみを感じられる環境。道をただ歩いているだけで、気軽に「野菜いるけ?」と声をかけてくれる、気にしてくれる。そうした日常の全てが私にとって愛おしい。この思いをいつか本にして、多くの人に地域の良さを伝えたいですね。
人が暮らすことで、お金に代えられない価値が生まれる
学生さんがこの地域で暮らすようになって、様々な効果が出ています。例えば、地域の一斉清掃や草刈りなどの作業。高齢者が多い地域で、そうした人の肩代わりを学生さんがしてくれる。集落の美観や、隣接する農地の保全にもつながるので、非常にありがたく思っています。住民たちも、孫ができたようで嬉しいと言っていますしね。学生さんたちには、人とのつながりをはじめ様々な経験を通して「地域の良さ」を感じてほしい。そして「いいところだった」「淡路の野菜は美味しかった」といったことを、外へ発信してもらえたらと考えています。
水田 泰善 さん
八木馬回地区の元会長を務め、現在は農業を主な生業とする水田さん。学生たちには、この地域を好きになって、人とつながってほしい。一緒に豊かな生活を築きたいと考えています。
獣害対策の金網設置や、田畑の畔整備、法面の草刈りなど地域全体で行う作業に学生も携わっています。これらの取り組みは森林保全や獣害について研究を進める森野教授とのつながりがきっかけ
農学とは、生き物の生命を支えるために最も大切な学部だと考えています。「醸造」は農学という広範な分野の中の一領域。今回新たに開設する「醸造学科」は、学科としては新しいものとなりますが、これまで地域創成農学科で行ってきた学びを、より先鋭的に展開するために学科として独立させたものとなります。「醸造」というと、真っ先に連想されるのが「酒」「味噌」「醤油」といったものですが、これらの食品に限らず、すべての食品で醸造は起こっています。例えば野菜は栽培の過程で生きていくために成長をしていますから、菌が周りに付着しています。この菌を上手く利用するということが「醸造」なのです。
日本は高温多湿の極端な気候で、世界でも限られた国。食べ物が腐りやすいことを歴史的に経験してきた国でもあります。この“腐る”という現象を逆に利用したものが「醸造」だということは、みなさんご存じの通りだと思います。醸造を利用して衣類の染色を行ったり、創薬もできるのです。食品で言えば漬物をはじめ、鰹節やメザシといった乾物も醸造食品。水分を抜くことで微生物を上手く作用させて、食品の成分を変えているのです。そうして先人たちが築き上げた豊かな食生活が、現代の美味しい日本食につながっているのです。
微生物は、カビの系統と酵母の系統と大きく分けて二系統。それぞれ数百億という種類があります。これらを組み合わせるだけでも途方もない数になることが分かるでしょう。さらに、微生物の作用はタイミングも大きく影響するため、可能性は無限大といっても過言でなく、まだ未知の領域も多く残されています。醸造の定義は「食べ物を食べやすくする」ということと、もう一つは「食べ物が体の中で有効に使える形にする」ということ。本学科は、この醸造を学び、新しい食品を開発できる学生さんを育てることを大きな目的としています。
古来より淡路島は朝廷へ御食料を納めてきた「御食国」。現代においても国内有数の農業地として知られていますが、海山を問わず、食材が大変豊かな地域です。その大きな要因の一つが鳴門の渦潮。豊後水道と紀伊水道からそれぞれ入ってきた海流がぶつかり、更に干満差で渦が発生する。そこにはプランクトンが多くいますから、大変豊かな漁場となります。この恵まれた環境を活かし、1年次・2年次までは野菜や魚の生産現場を理解し、2年次の後期からはこれらの加工方法を学びます。3年次は微生物の働きや遺伝子組み換えの技術を修得します。3年次の後期から4年次は、集大成として食品開発に着手。これは、学生自身のアイデアで、自由に取り組んでほしい。失敗することもあるでしょうが、恐れず何事にもチャレンジすること、失敗を通して成長してほしいと考えています。
金沢 和樹 教授
糖尿病軽減などの機能性を持つサプリメントや健康食品、また南あわじ産タマネギ外皮の抽出物を用いた、日焼け止めクリーム、アレルギー軽減石鹸、ニキビ防止クリーム、抗菌フィルムなどを開発。 食品に含まれる機能性成分の網羅分析、海藻を用いた機能性食品の開発などにも取り組んでいます。
〈専門分野〉
食品栄養化学、食品機能化学、食品加工化学
生命を支える「醸造」
私たちの身体の中でも「醸造」は常に起こっています。その役割を果たすのが腸内細菌。食べ物が胃から腸へ移動した時、腸内細菌による醸造が起こるから、私たちは食べ物から栄養を取り入れ、不要なものを腸内細菌とともに排出することができるのです。
腸内環境を整えることは、様々なアレルギーの改善につながるとも言われています
農業の6次産業化に求められる生産、加工、流通分野の知識と技術、研究能力や技術開発力を身につけ、国内外で活躍できる人材を育てるための教育プログラムを導入。一大農業生産地であり、豊かな自然と人情味、歴史文化のロマンあふれる淡路島での学びを通して学生の能力を最大限に伸ばし、未来を切り拓く力を育てます。
醸造・発酵といった食品の「科学」について、基本的な知識と技術を広く身につけます。味噌や醤油、酒など、伝統的な醸造・発酵食品などの技術をさらに進化させ、今までにない醸造関連食品の創出や食文化への応用などを通して、地域社会をはじめとした日本国内、そして国際社会に貢献できる人材を育成します。