2012 年 7 月 23 日

学部大学院5年一貫教育

当大学では、学部大学院5年一貫教育がおこなわれています。

その第1号の学生を紹介します。

以下指導教員の先生よりいただいた原稿を掲載します。

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京極  こんにちは、吉備国際大学で教員している京極真です。吉備国際大学では、昨年から学部大学院5年一貫教育がスタートしました。学部大学院5年一貫教育とは、学部教育4年間と大学院教育(修士課程)1年間からなるシステムです。大学入学後4年間で学士号、そして5年後には修士号を取得できるわけです。通常、修士課程は2年間ですけど、それが1年間短縮されるのです。このシステムを利用するには、学部・大学院の成績が優秀である等のいろいろ条件をクリアする必要があります。

今回、このシステムの最初の学生に選抜された寺岡睦さんに、実際の体験等についてお話ししていただきたいと思います。作業療法業界では、全国的にもかなり珍しいケースだと思うので、寺岡さんの体験を共有する意義は少なくないと思います。それではよろしくお願いいたします。

寺岡  よろしくお願いいたします。

京極  早速ですが、学部大学院一貫教育コースに進もうと思った、そもそものきっかけは何ですか?

寺岡  一番のきっかけは大学2年の時に、ある先生の講義を受けた体験でした。その先生の講義は面白かったのですが、内容が分かりにくく、その学問本来の面白さが十分に伝わっていないと感じました。

私の両親が教員ということもあると思うのですが、その授業を受けて「私ならこう教えるのに!」と非常に歯がゆく思いました(笑)。それがきっかけになって、「将来的には、臨床家としてだけでなく、大学の先生になって教育や研究もできるようになりたい」と思いはじめました。

それで当時、チューターだった岩田美幸先生に、将来について相談しました。すると、岩田先生がその後も気にかけてくれて、3年生の時に学部大学院一貫教育がスタートするという話を紹介してくださいました。

学部大学院一貫教育を受けるためには、成績が上位でないといけない事や、受け入れ先の研究室がないといけないというハードルがあったのですが、成績は偶然にも良かったし、希望した研究室の先生(京極真)にも快諾してもらえたため、学部大学院一貫教育に挑戦する事ができました。他にも、両親や友達の支えがあったからということもあります。

先生方は「すごく大変になると思うけど…」と心配してくださったのですが、自分の夢に早く近づけるので挑戦することを決めました。

京極  大学の講義がきっかけだったんだ(笑)。何が誘因になるかわからないもんだね。それで学部大学院5年一貫教育を通して、どのような研究に取り組まれているのですか?

寺岡  詳しくは研究中なので話せませんが、現在、私は作業機能障害の種類に焦点化した評価尺度とOBP2.0という理論の研究開発に取り組んでいます。作業機能障害とは、生活行為が適切に行えていない状態です。これは患者や障害者だけでなく、健常者にも起こりうる問題です。

例えば、「やりたい事はあるのに、忙しくてできない」とか、「病気のせいでやりたい事ができない」などの経験に遭遇したことはありませんか。あるいは「なにもやる気がおきない」とか「何を行っても周囲の人から認められなかった」などの経験はありませんか。

つまり作業機能障害は、人びとが何かする際に生じる問題の総称です。先行研究では、作業機能障害は個人の健康問題がきっかけで起こることもあれば、環境や社会問題によって起こることもある、ということが示唆されいます。

またこれは、いくつかの種類に分けられるようだということもわかってきています。研究者間で主張が異なるところもあるのですが、私は共通の種類に整理できそうだと考えています。でもこれ以上はまだ秘密です(笑)。

京極  わかりました。で、それを作ると、どんなメリットがクライエントと作業療法士にもたらされると考えているのですか?

寺岡  この研究の意義はいくつかあると思います。ひとつは、この研究によって、クライエントがどういう作業の問題を抱えているのか、を明確に捉えられるようになると思います。もうひとつは、作業機能上の問題の型式がわかれば、それを改善させる条件を備えた介入を組み立てやすくなるだろうと考えています。他にもいろいろ考えられますが。

京極  なるほど。話しは変わりますが、新しいことに挑戦する面白さの反面、学部と大学院の両立は苦労も少なくないと思うのですが、実際のところどうでしたか?

寺岡  本当に大変でした。学部時代に出席しなければならない大学院講義は週に1回ですが、これが朝から晩までありました。周りの大学院生は優秀な方達ばかりで、先生たちの講義を踏まえて討論できていたのですが、私はそれについていくのがやっとでした。もちろん週1回で済むわけもなく、その日以外は、国内外の先行研究を読み込んだり、ゼミで発表するためにレジュメを作成したり、研究計画の検討を行ったり、いろいろありました。

それを、学部の勉強と並行して行うのです。この時期の学部では卒業論文作成と国家試験対策が中心で、大学院以外でもずっと勉強していました。特に大変だったのは、12月にあった大学院研究計画発表会の前後です。この時は、いつにも増して先行研究を精査しないといけないし、厳密な研究計画書を完成させなければなりません。そのうえ国家試験の日も近づいているので、そちらの手を抜くこともできませんでした。大学院で研究していたから国家試験に落ちた、ってことになったら身も蓋もないので、人よりたくさん受験勉強やらないといけないというプレッシャーがすごかったです。正直なところ、この道に進んだで良かったのだろうかと悩んだ日もありました。

でも、仲間から勉強でわからないところがあったら教えてもらったり、いろいろ相談にのってもらったりして、どうにか乗り切ることができました。また大学側もいろいろと配慮してくれました。国家試験対策の講義を、大学院の講義がある日以外にずらしてくれたり、指導教員の京極先生をはじめ、色々な先生たちが気にかけてくださり、激励の言葉をかけていただきました。今思うと、たくさんの人の支えがあって、乗り越えられたように思います。

京極  教員として見ていても、本当に良く頑張っていたと思いますよ。では、学部と大学院の両立に挑戦して、良かったことは何ですか?

寺岡  私の場合、いち早く夢に挑戦できたということが、一番良かったです。最初に言ったように、私は臨床家だけでなく、教育や研究も行える人になりたいと思いました。また、学部生時代から、国内外の文献を幅広く読み、大学院生の先輩たちや大学院教員と討論する機会がたくさんあったので、研究マインドが高まったと思います。他にもいろいろありますけど、簡単に研究職に就けないと聞いていますが、それでも夢に早い段階から挑戦できているという事が、大きなメリットだと思います。

京極  なるほど。少し話しは変わるけど、作業療法の未来は、若い人たちの努力と挑戦にかかっていると思いますが、作業療法士になって2ヶ月(2012年6月現在)経ったいま現在、作業療法の未来像はどのように描いていますか?

寺岡  作業療法士は、本当に様々な分野で働ける職業だと思います。作業は日々の生活の総体であり、作業療法は生活をする人すべてが対象です。作業療法は曖昧だと言われることがありますが、裏を返せば領域を超えて、作業を行う個人や社会に積極的に介入できる職業になると思います。私は作業療法のポテンシャルは相当なもんだと思っています。

私が研究している作業機能障害は、障害者だけでなく健常者も起こりうる問題です。障害者の作業機能障害についてはたくさんの研究で報告されていますが、健常者についても、例えばある領域の健康労働者の約4割が作業機能障害に陥っている可能性があるという論文も発表されています。また刑務所に入って自由がない受刑者、貧困に苦しむ人たちなども、作業機能障害の可能性が考えられています。

現在、私が研究中の評価尺度は、作業機能障害の類型を明らかにするものです。それの開発が進んでいけば、障害者と健常者という区分を超えて、作業の問題にあわせたかたちで作業療法が提供される可能性を後押しできるかもしれません。私は作業療法の世界がもっと社会的に認知され、職域がもっと広がれば良いと思っています。若造のくせに生意気なこと言ってすいません(笑)。

京極  いやむしろ、若い人がビジョンを語ることが、これから重要になると思いますよ。最後に、この記事をご覧の皆様にメッセージをお願いします。

寺岡  学部大学院一貫教育は、大変だけどすごく良い制度だと思います。大学院進学を考えている学部生の人がいらしたら、ぜひ後に続いてもらいたいです。しかし、要件が厳しいので、1年生の頃から勉強をしっかりしていきましょう。

今後は研究を進め、作業療法を社会に広めていきたいと思っています。まだまだ夢の途中で、研究者としても臨床家としても半人前ですが、これからもしっかり研究基礎力を身につけて、精一杯頑張っていきたいと思っています。

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寺岡睦(てらおか・むつみ) Twitter ID: teraokamutsumi

1989年高知生まれ。作業療法士、大学院生。医療法人慶真会大杉病院、吉備国際大学学部大学院一貫教育コース(保健科学研究科修士課程)。関心は作業機能障害の種類と評価の開発、OBP2.0の体系化、作業科学、作業療法理論全般、信念対立解明アプローチ。

京極真(きょうごく・まこと) Twitter ID: MaKver2

1976年大阪生まれ。Ph.D.、作業療法士、解明師見習。吉備国際大学および同大学院(修士課程・博士課程)・准教授。主著に『医療関係社のための信念対立解明アプローチ』、近著に『チーム医療のための信念対立解明アプローチ超入門講座』(中央法規出版)など他多数。

カテゴリー: 教育・研究